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田舎の誰もいない電車
町から4つ目の駅
停車する意味もないくらい
人が居ない
暗くなった夜
花火の音が聞こえる
花火大会だったんだ
電車の窓に移る自分
決して大人ではない
でも子供とも言えない
子供で居たくない
大人にもなりたくない
ため息混じりに電車を降りて改札口へ
「りなちゃんじゃない?」
全然覚えのない人に声をかけられて愛想笑いして過ぎ去ろうとした
「女の子らしくなったね。」
私は黙った。
「りなちゃん忘れちゃった?まゆみ先生だよ?」
身なりがすっかり変わってしまった幼稚園の先生だった
あのときまだ新任の先生だった。
「こんばんは。お久しぶりです」
「もう制服着る年になったんだもんね」
先生の薬指には指輪が光っている
結婚したんだ。
どことなく幸せそうだった。
「まだ幼稚園にいるから顔出して?園長先生も喜ぶから」
「はい。」
「歩いて帰るならおうちまで送るよ?」
「いえ、大丈夫です。お母さんが迎えに来てくれるんで。」
「そっかそっか。気をつけてね。じゃあね。」
「はい。では、さようなら」
先生は手を振って笑顔で迎えに来た車に乗っていった。
旦那さんらしき人に軽く会釈して
手を振った
花火の音がまだ聞こえる
外灯に群がる虫たち
星空
夏の夜のにおい
普通に時は流れているのに
本当はお母さんは迎えに来ない
年の離れた弟の世話で大変だから
終わったら電話してって言われたけど
連絡しない。
歩いて帰りたい。
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