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そんな不思議な出来事を、もちろん一緒に暮らしている彼氏に話してみた。
彼女はそこで『小さいオッサン』の事を、初めて知ったという。
確かに風貌はそれに近かった。
黒に近いグレーの汚れたスーツを着ていたが、ネクタイをしていたかまでは覚えていない。
髪は七三分けだったような気もするが、あの時は少しバサバサと乱れていたと言うのだ。
靴を履いていたかという事も、覚えてはいない。
そして、彼もまともに取り合ってはくれなかった。
熱があったのだから、虫でも見間違ったんだろう、とそっけなく言われた。
じゃあブラウスのボタンの事は、どう説明するのか?と彼女が言うと、「熱のせいで無意識に留めたんじゃないの」と言われた。
「絶対にそれはない」と、言い切れない所が悔しかった。
もともと、幽霊の類(タグイ)の話は苦手だったし、信じない訳ではないのだが、見たいとも思っていない。
出来る事なら、そういったモノは、一生見たくないと思っている。
胸にわだかまりを残したまま、彼女の『熱のせい』として、その時の事は片付けられてしまったのです。
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