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窓際に立つと、洗濯機が上から見てとれた。
だが『小さいオッサン』は、やはり見当たらない。
彼女は気を付けながら、窓をそっと開け始める。
彼女が余裕で出られる幅を作るまで、何分かかったのか分らない程ゆっくりと、音を出さずに開けた。
そこからもゆっくりと、スロー再生でもしているのかと思うくらいの動きでやっと出た。
ベランダ用のサンダルが置いてあったが、音が出てしまう恐れもあり、裸足の方が都合が良かったから、そのまま出てしまった。
洗濯機の横に立つと、ソレは見えた。
暗いグレーの汚れたスーツを着ていたが、今日は腕まくりをして、少し手首から上が見えていた。
やはり髪型は七三分けのようだが、ボサボサでちょっと長めだった。
ネクタイは薄めのグレーで、かなり緩めに付けていて、顔には少し無精髭が生えている。
そんな『小さいオッサン』は、かなり疲れているようで、止め金の所に座り、彼女とは反対側を向いて、ボーッとしていたのだ。
彼女は興奮した。
しかし、携帯を握る手が、硬直してしまっていたのだ。
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