巷(チマタ)で噂の…(👂)

15/19
前へ
/1471ページ
次へ
震えてはいなかったが、携帯を握っている指が動こうとしなかった。 携帯を開いて、カメラを起動させれば、すぐにでもこの光景が写せるというのに、脳から送り出している伝令が、どこかで拒否されているみたいだった。 今まで生きてきて、これ程信じられない光景を見ていながら、それでもまだ信じられないでいた。 この世の中に、こんなモノが存在するなんて有り得ない事なのに、これを撮ったらきっとみんな信じてくれるはず… そして新聞社なんかに売って… 彼女をつき動かしたのは、その貪欲な考えだった。 彼女の指が少しずつ動き、携帯がカチリと開いた。 でも、写真に写るのだろうか? そんな疑問も湧(ワ)いてきたのだが、とにかく撮ってしまった方が早い、と思った。 写っていなければ、それまでなのだから。 彼女は携帯のキーを押し、『小さいオッサン』と自分の携帯を交互に見ながら、ようやくカメラの画面を出した。 その間も『小さいオッサン』は、彼女に気付く事なく、反対側をボーッと見ている。 彼女はその位置のまま、携帯を持った右手を、ゆっくりと持ち上げた。 .
/1471ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21362人が本棚に入れています
本棚に追加