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震えてはいなかったが、携帯を握っている指が動こうとしなかった。
携帯を開いて、カメラを起動させれば、すぐにでもこの光景が写せるというのに、脳から送り出している伝令が、どこかで拒否されているみたいだった。
今まで生きてきて、これ程信じられない光景を見ていながら、それでもまだ信じられないでいた。
この世の中に、こんなモノが存在するなんて有り得ない事なのに、これを撮ったらきっとみんな信じてくれるはず…
そして新聞社なんかに売って…
彼女をつき動かしたのは、その貪欲な考えだった。
彼女の指が少しずつ動き、携帯がカチリと開いた。
でも、写真に写るのだろうか?
そんな疑問も湧(ワ)いてきたのだが、とにかく撮ってしまった方が早い、と思った。
写っていなければ、それまでなのだから。
彼女は携帯のキーを押し、『小さいオッサン』と自分の携帯を交互に見ながら、ようやくカメラの画面を出した。
その間も『小さいオッサン』は、彼女に気付く事なく、反対側をボーッと見ている。
彼女はその位置のまま、携帯を持った右手を、ゆっくりと持ち上げた。
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