72人が本棚に入れています
本棚に追加
――目が覚めるとひどく青い空が見えた。一瞬、ここは死後の世界かと思ってしまったぐらいだ。
「おい! 目が覚めたぞ!」
白いヘルメットを被った男が俺に気が付いたようだ。まるであり得ないものを見る目付きに俺は戸惑った。
「き、君! 大丈夫かい!?」
大丈夫なわけがないだろう。さっきまで火あぶりになっていたのだから。
何故か男は俺の腕を握って離さない。
少しキツいぐらいの痛みに、頭が覚醒してきた。
「み、皆……家族は……」
「……大丈夫。安心しなさい」
よかった、無事なんだ……なんて思うわけがない。俺の目の前で母さんが部屋に閉じ込められ、弟が屋根に潰されたんだ。無事であるはずがない。
この男はウソつきだ。
「い、痛っ……」
さっきから男の手が俺の腕を掴んでいる。どこか焦っている様子の男は、ようやく俺が痛がっていることに気が付いた。
「はな、して……!」
「……あぁ、わかった。君が離したら離してあげるから。さぁ、離すんだ」
何を言っているのかわからない。離すもなにも掴んでいるのはあんただけじゃないか。
が、違和感を感じた。
俺は、なにか持っている……?
男の手を振りほどき、俺は『右手』を見る。
男が静止の声をあげるがもう遅かった。
まだ10歳前後の俺が見たものは――
最後の瞬間まで握っていた、
その先がない、父さんの右手だった。
最初のコメントを投稿しよう!