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「変わらない」
たった一言。そしてそれ故にそれが不変の決定事項だと強制認識させられる。そういった響きを持った声だった。
「そんなに不満なら草壁君の通知は無しにしてもいいよ」
「……え?」
今、この男は何て言ったのか? ミカドは耳を疑った。
「しかしそうなると困ったことになるねぇ」
目の前には悪魔のように笑う男の顔があった。とても神殿の主とは思えない顔だった。
口元をひきつらせて男はニヤリと笑う。とても皮肉的な笑みだ。
「君にこんな仕事がまわるくらいに神殿は人手不足だからね。君がこの仕事を降りるなら、残念だけど草壁君は何も知らず自分の罪を償えずに地獄行きだねぇ」
クックッと愉快そうに男は笑う。その瞳には狡猾そうな光が宿っていた。
「そんなの……」
理不尽な結果論にミカドは反論しようと口を開くが、言葉が出ない。これ以上口答えしようものなら不幸過ぎる少年が自分のせいでさらに不幸になってしまう。
元々彼を少しでも救えないかと神殿に駆け込んだのだ。しかしこれでは逆効果だ。
(この悪魔が……!)
ミカドは心中で悪態をつく。とても神殿の主に対する言葉ではない。
だがミカドはわかっていた。自分がやらなくても代わりが行くことになるということを。だが目の前の男は何をするか分からない。
「……わか、った。彼は私が担当する。私が、助けるだけだ」
「そう言ってくれると思っていたよ。あと草壁家はあまり詮索しないこと。じゃあ、頑張ってくれ」
机越しに肩を叩かれる。男の顔はいつもの優しそうな笑いに戻っていた。
ミカドにとっては屈辱でしかなかった。
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