【始まりの時】

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朝、オレは珍しく目覚まし時計という名の悪魔の雄叫びが鳴り響く前に目を覚ました。正直、快眠出来たとは言い難い状況だ。 オレはあれだ、遠足の前日は中々寝付けない人だ。 クラスに1人はいる、楽しみ過ぎて夜眠れなくて遠足当日を本調子で迎えられずバスとかでいつの間にか眠ってしまっているタイプの人だ。 と言っても、別に今日は楽しい楽しい遠足ではないのだが… 花も恥じらう17歳、青春真っ盛りのこのオレ不動幸人は今日、西蓮寺高校という絶妙にネーミングセンスのない高校に編入する。所謂転校生だ。 6月という意味のわからないタイミングでの転校だけに、〈謎の転校生〉として、SOなんちゃら団とかに勧誘されるのではないかとワクワクしている自分がいたりする。 「…早めに支度するか。」 この家に越して来て早一週間。転校に伴い一人暮らしをしているわけだが、一人言が増えたような気がする。思ってたより一人暮らしって難しいよな。この一週間、ろくな生活を送れていない。まぁ、家事全般だいたい出来ないから当たり前なんだが。世の中の一人暮らしを立派にこなしている方々に敬意を表したい限りだ。いや待てよ、立派な一人暮らしって何だ?そもそもその定義から『ピピピピッ、ピピ「バンっ!」ヒッ!!』 「うるせえ目覚まし野郎!もう起きてるっつの!お前は昔からそういう奴だよ!相変わらず空気読めないんだから!」 ……なんか虚しいな。もう止めよ…… ベッドから這い出て、とりあえず洗面台へ向かう。 ……顔を洗い、歯を磨く。ここまではいい。順調の一言だ。問題はここからだ。何だと思う?正解は食事だ。 当たり前だが、オレは料理なんて出来ない。というより、した事がないから出来るのかすら分からん。最後に包丁を持ったのは小学生の家庭科の授業の気がする。 仕方がないので、朝食はいつも食パン。もちろんトースターなんてない。だからただの食パンだ。味気ないが我慢しないとな……せめてバターが欲しい、今度買いに行こう。 幸い、家の近くに定食屋があるので夜はそこで済ませることが多い。晩ご飯のみでまともな栄養をとっている状況だ。まあ、晩ご飯がまともなら死にはしないだろう。 なんとなくつけたテレビで放映される朝のニュースを見るようで全く見ずに眠気と格闘しているうちに、朝食を食べ終え、着替えのためにクローゼットに向かう。
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