第一部 一瞬

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5月病を乗り越え、新しいクラスにもようやく慣れてきた高校2年生の6月初頭。 6月。 雨の降る季節。 紫陽花の彩る季節。 私は、この季節が嫌いじゃない。 理由は特にない。別に雨が好きな訳でも無ければ紫陽花が好きな訳でもないし、まして、素敵な出会いをした特別な季節という訳でもない。 理由はないけれどもなんとなく好きなことなんて、この世の中には沢山ある。逆もまた然り。情熱的に打ち込める何かもなければ、人生に絶望するほどこの世の中を恨むこともない。 現役女子高生らしからぬ冷めた発言かもしれないが、16年という年月の中で学んだことは、なんとなく、という言葉の使い勝手の良さと、誰しも皆それに呼応するように生きているのではと思えるくらい、いい加減な人がこの日本には多いということくらいなもの。 …話がそれたが、とにかく、私はこの季節は嫌いじゃない。 …今朝は、格別変わった事は無かった。 いつもと同じ様に起きて、いつもと同じ様にご飯を食べて、休日を持て余す様に、当てもなく外に出た。 …だからこそ、今の状況を理解出来ない。 ただ一つ、確かなことは、今私の目の前―――というより真横に、乗用車なら難無く踏み潰してしまいそうなトラックがいる。 減速はしていない。 いや、ブレーキは踏んでいるけれど、既に手遅れなのでしょう。一瞬見えた運転手の顔は、青ざめていた気がした。 …全てがスローモーションに見える。 走馬灯の様に蘇る、という言葉があるけれど、むしろ何も頭に浮かんでこない。 ただ一つ考えられたことがある。 あぁ、私――――― 死ぬのかな
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