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「あの、お名前はお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「不動 幸人(ふどう ゆきと)だ。」
ふどうゆきと………
知らない名前なのに、どこか懐かしい、不思議な感覚。
「不動さん……本当に、助けて頂いてありがとうございます。なんと御礼を言ったらいいか…」
「いや、無事で良かった。ほら、これ。あんたの傘だろ?奇跡的に壊れてはないみたいだぜ。」
「あ、どうも……えっと……お礼の言葉くらいしか出てこないんですが……感謝してもしきれないというのは、今のためにある言葉だと思います。あ、汚れてしまった服の代金とか、必要なら払いますので…」
「……君の、名前は?」
「……閖本 由美奈(ゆりもと ゆみな)って言います。すいません、名乗りもせずに。」
「よろしく。」
「…よろしくお願いします。」
……助けていただいてあれだけど、ちょっとマイペース過ぎません?
「あー……やべぇ、ぐしゃぐしゃだな。」
……手に持った紙袋を見ながらそう言った不動さん。
これはあれか。君を助けたせいで私の大切な壺が壊れてしまった。3000万円頂こう。っていう一種の詐欺まがいな何かかな?
「……あの、どうかしましたか?何か壊れてしまったとかなら、弁償しますので…」
「いや、大したことじゃない…花を買ったんだけど、今のでぐしゃぐしゃになった。」
「そうでしたか…代金はお支払します。それか、もしご迷惑でなければ、新しいものを買ってご自宅まで郵送とかしますので…」
「ん?いやいーよ。そこまで気にしなくて大丈夫だ。…あ、その代わり一つお願い。」
「はい、私に出来ることなら。」
「…笑ってくれ。」
「はい?」
「…あんたの笑顔が見たいってこと。」
……なんだこいつ。いや、助けて頂いたことには本当に感謝してるし、確かに出来ることならするとも言ったけど。いくら私が可愛いとはいえ、普通あの事故後でこの状況で女子に笑顔を求めますか?
「…わかりました。」
少々腑に落ちないけど、まあ、命の恩人だしこれで満足して頂けるならいいかな。
「では、はい―――」
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