一話 え?喋る猫?

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だから帰る時も途中までは同じ方向であるのだ。 実際に誘われたのは初めてである。 「今日はいい空ですね。風もいい感じだし」 「ん~そうだねぇ、夏はいいよねぇ」 俺は内心ドキドキだ。 隣にいるのは、風に茶色の長い髪をなびかせる女性。 幼い顔と小さい身長が、俺より年上とは思えない。 時折俺に向けて投げかける笑顔は、俺の疲れた体を芯から癒してくれる。 「優斗君は彼女いないの?」 「か、彼女っすか?いないっすよ!全然いないっす!」 「どうして?」 「え、いや…どうしてもこうしてもないですよ。そんなモテないですし」 それは残念な現実である。 「そうなの?」 だけど静流さんは首を傾げている。 「そんなもんなんですよ」 どこからともなく聞こえる蝉時雨。それは夏を彩る一つの風物詩とも言える。 今日は夏の中では比較的過ごしやすい涼しい気温。
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