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稔麿はなぜだか予感がした。
何かが起こる予感。
それは悪寒などではなく
むしろいいことが起こるように思えた。
その予感には確信めいたものがあって無視できず、旅籠の部屋の窓から月を眺めた。
今寝てしまってはよくないような気がしたから。
月を眺める…と言ったものの、今日は月が見えない。
雲で隠れてしまっている。
ただ雲の隙間から洩れる月光を眺めた。
フト、
目線を下におろすと、人影。
忍か、間者か、と疑うものの、どうも動きがおかしい。
だんだんと近づいてくる人影。
まさか、と思いつつ眼をこする。
そんな稔麿に気づいた人影、双葉は稔麿を見上げて手を振った。
それにしても、もう夜中である。皆、寝静まっている中、表からは入れない。
少しの間思案した双葉は、
稔麿のいる部屋に近い木にヒョイと登って飛び移った。
まさか飛び移ってくるなんて予想していなかった稔麿は、飛び込んできた双葉に押されて床に沈んだ。
そしてそのまま、双葉を抱きしめる。
双葉の匂い、吐息、抱きしめた感触。
そのすべてが今稔麿の腕の中に双葉がいることを教えていた。
やっと、やっとだ。
寺で会った後、三日でさえ待つのが嫌だった。
腕の中にある幸せをより一層ぎゅっと抱きしめると
双葉も腕をまわしてぎゅっと抱きついた。
双「ただいま、栄太郎」
稔「おかえり、双葉」
お互いの存在を確かめあうように、ゆっくりと言葉を紡いで、抱きしめた。
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