紫蘭の伝言

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このまま放っといたら…やばそうだな…。 俺はその猫にゆっくり近付くと恐る恐るそれに触れた。 引っ掻かれるかな…と思っていたが、意外にも俺が触れても何の抵抗も見せなかった。 「あ、意外と大人しいんだ」 これならやりやすい。そんな事を考えながら、俺はポケットからくしゃくしゃのハンカチを取り出した。 それを傷にあんまり触らないように、出来るだけ丁寧に巻いてやる。 こんなもんでもなんとか応急処置くらいにはなるだろう。 「よし…これでとりあえずは…ちょっとそのまま大人しくしてろよ」 俺は足早にそこを去り、近所の薬局へと駆け込んだ。 そして、薬と包帯を買うと、次にスーパーに行って、猫缶と小さな皿とタオルを買い、再び古びた公園へと足を向けた。 普通に放ってもおけたものを自分が何故そんな行動に出たのかわからない。 だが、それはおそらく、あの猫の瞳のせいだろう。 あの猫の孤独な黒い瞳が寂しいと泣いているようで俺は放ってはおけなかったんだ。
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