紫蘭の伝言

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公園に着くと、ソイツはさっきと変わらずそこにいた。 俺の足音に気付いたのか、ゆっくりと顔を擡げてこちらを伺うように見た。 「お、ちゃんと大人しくしてたみたいだな」 偉い偉いと言いながらソイツの頭を優しく撫でてやる。 よほど寒かったのか、ソイツは俺の手に身を擦り寄せてきた。 意外にふわふわと柔らかい毛がくすぐったくも心地よく、触れた部分の温かさからその小さな体に俺は命を感じた。 俺はおもむろに手に持っていた袋をあさると中から白い包帯と薬を取り出した。 そしてソイツの手からハンカチを外すと薬を手とり傷口にそっと塗る。 「ちょっと痛いけど我慢しろよ」 なるべく傷口に荒く触れないように…コイツがこれ以上傷付かないように、俺はなるだけ優しくそれを行った。 ソイツは俺が包帯を巻き終えるまでじっと動かずに目を伏せていた。 痛くないはずないだろうに…。 「よく我慢したな」 俺は再びソイツをゆっくり撫でた。 そしてまた袋をあさると今度は猫缶と小皿とタオルを取り出した。 ソイツの前に小皿を置くとそれに猫缶の中身を盛る。 クンクンと臭いを嗅ぎ、まるで"食べていいの?"と聞かんばかりに怖ず怖ず見上げてくるソイツが可愛くて、俺は思わず微笑んだ。 俺が笑ったのを確認すると、ソイツはゆっくり口をつけ、一口目以降は夢中になってあっという間にそれを平らげた。 美味そうにまぐまぐと食べている姿があまりに愛らしく、ソイツが食べ終わると同時に無意識にまたソイツを撫でていた。 気持ち良さそうに俺の手に擦り寄るソイツに俺は持っていたタオルをふわりとかけてやる。 「俺はこれで行かなきゃならないから、またな…風邪ひくなよ」 そう言い残して俺はその場を立った。 あまり長くいたら、愛着がわきすぎてしまいそうで怖かったのかもしれない。 ここに居続けたら、俺はコイツを手放せなくなる。 なんとなく、そんな予感がした。 それでもやはり後ろ髪引かれるもので、何度も私振り返ってはひらひらと笑顔で手を振ったりしていた。 我ながら猫相手に何やってるんだか…と思うが、なんだか俺はソイツに特別な何かを感じていた。 しんしんと降るアイツと逆の色を眺めながら、ぼんやりと俺はそんなことを考えていた。
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