猫の魔法

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 山城佐代子は玄関で待っていた。  今日は同級生の田代寛子の家に泊まりに行く約束をしていたのだ。  あと一人、林今日子も来る事になっているが彼女はアルバイトがある為に後から来る。  4人で寛子の家の近くにある砂浜で花火をして、それから寛子の家で夏休みの数学の宿題を一緒に片付ける。  数学教師の志村はB4の用紙で15枚もの宿題を出してきた。宿題必死につくる時間があるなら毎日左右どちらかにずれている自分のカツラを直す方を優先したらどうだ、と誰かが言っていた。 「タマ。行ってきますのキスよ! 」  優子は玄関で佐代子をジッと見つめたままだったタマを抱きかかえるとタマの顔の先、鼻と口を塞ぐようにカパッとかぶりついた。 「ニャッ!! 」  タマはジタバタして必死に優子のキスから逃げようとしているが優子はフガフガいいながら吸い付いて放さない。鼻と口を完全に塞いでいる為、キスと言うより拷問だ。  5秒ほどしてやっと解放されたタマは床にスタッと着地すると「フガッ」と鼻をならしてから顔を手でモガモガした。 「タマいやがってない? 」  佐代子が苦笑いしながら優子に言った。 「そんな事ないわよねえ、タマ? 」  と言ってもう一度抱きかかえようとした優子の足の間をすり抜けてタマは玄関から出て行ってしまった。 「ほら、逃げたじゃない 」  佐代子は楽しそうに笑っていたが、優子は「もうっ! 」と言ってほっぺたを膨らませた。
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