第一部・出会い

7/10
前へ
/269ページ
次へ
ハクはうっかり者の実弟を思う。 実力はないが、血筋としては確かだった。加護もそれなりに水の島を守っているのは彼の目を通して伝わっていた。 だが、実力がないからか、海賊と言うならず者が"棲みやすい海域"になっていたのは事実だった。 自分ならば"的確に海賊を狙った波"を発生することが出来たが、うっかり者で不器用な彼にはそんな技が出来るとは思えなかったので、小さな溜め息を吐いていた。 ハク:「(…愚弟を持つのも、兄の特権だな)」 一一カンカンカンカン その時、船舶の上の方から見張りの人が鐘を鳴らした。全員、音を鳴らす人の方を見る。彼の手には双眼鏡が握られていた。 見張り:「先方に船の影あり!…商戦の証である旗も特徴もなし。武器をそれぞれ所持しているのを見て、海賊のおそれあり!」 船長は自分の望遠鏡で、見張りが指差す方を見る。そこにはそれほど大きくはない船があった。自分が見知っている種類の船舶ではのは確かだった。 海賊:「おめぇら、相手が俺らに気付きやがったみてぇだぜ!…船長、出番ですぜ!」 船長でもなく、下っぱではない海賊が望遠鏡でハク達の船を見ながら叫ぶ。 船長はその海賊に怒鳴る。 船長:「うるせぇぞ。…はしゃいでんじゃねぇ」 船長は服を漁りながら、ハクと同じように船首に立つ。 船長:「一一戦闘準備は出来てるか?…行くぞぉ!」 海賊達は雄叫びをあげる。 その声がハクが乗る船舶に届き、船長と船員に緊張が走る。 ハク:「…安心しろ。私が居る限り問題はない」 ハクはちらりと上空で待機するクロスもフォーカスを見る。 クロスは手を振り、フォーカスは頷く。 海賊船長:「一一行け!、俺の僕!!…派手に暴れてこい」 背表紙が青いトランプを高らかに掲げると、光りが放たれる。 その中から、口が鰐(ワニ)で、身体が鯱(シャチ)の姿をした魚類が大口を開けて海に飛び込んだ。 泳ぎ方はシャチそのもので、口を何度も開けたり閉じたりしている。 ハク:「一一見た目だけの種類か」 ハクは小さく、溜め息を吐く。 海賊の召喚獣である鰐鯱(ワニシャチ)の役割は、狙った船の沈没だった。 目の前の船を沈めるのは浮く物と浮かない物を区別させるためだけだった。あわよくば、乗っている船員達の足場をなくすことにより、海賊に打撃がない安全策だった。
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加