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一一僕には父が居ない。
物心がついた時に居たのは母と姉だけだった。
二人が僕の大切な家族だった。
小さい頃、友達の家族を見たり、スーパーで家族連れを見て、どうして僕達には父親が居ないんだろうと不思議に思って、姉さんに聞いたことがあった。
何故か、母には聞けなかった。
幼くても、聞いちゃいけないんだと気遣ったんだと思う。
当時、僕は6歳だった。
一一どうして僕にはお父さんが居ないの?…友達にはお父さんが居るのに…買い物だってお父さんとしているよね?
それぞれの家族には様々な家庭環境があることを深く理解が出来ていなかった。
11歳の姉さんはそれを聞いてとても悲しそうに笑って、僕をギュッと抱き締めて呟いた。
一一その話、お母さんにしたらダメよ。
分からないことがあった時には何でも直ぐに教えてくれた姉さんがそれについては何も話してくれなかった。
何かを知っているのは表情を見れば、直ぐに分かった。
僕は姉さんのその顔をもう見たくないと思ったから、もう聞こうとは思わなかった。
"僕はその日、お父さんが嫌いになった"
父の存在が、母と姉さんを悲しませるということを知ったからか、僕が父の話をして姉さんを悲しませたからか、分からなかった。
確かなのは、父の話をして、姉さんが僕を抱く腕と身体が震えていた。
僕は母と姉さんが大好きだった。
2ヶ月前、一年前に失踪した姉の葬儀があった。そこには死体も遺品も入っていない、形だけの葬儀。
僕はそれが信じられなくて、姉さんの部屋に行った。そしてそこで"あの手紙"を見つけた。
新たな世界に行って、かけがえのない仲間と出会い、姉さんを見つけた。
元の世界に戻って、2ヶ月間、いつもの生活をした。
"母さんが居たから、僕は戻ってきた。"
そう自分で選んで戻ってきた筈だった。
それでも2ヶ月後、僕は僕で居るために一一母さんじゃなくて、新しい世界にいる仲間を選んだ。
僕はもう、後悔はしたくないから。
生まれた育った世界には居ないけど、母に胸が張れるように生きようと改めて誓う。
一一僕が出会った、大好きな仲間と共に。
いつか、母に紹介できれば良いけど。
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