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真っ白い部屋だった。
壁も天井も白く塗られている。あまりにも白い故に、遠近感を狂わせる。まるで、そのためにあるような部屋だ。
しかもこの部屋には、家具もなく、窓もなく、扉もない。電灯もないはずなのに、しかしどこからか明かりが部屋を照らしていて、部屋をよりいっそう白く染めていた。
そこに、少年がいた。
扉がないのに、どうやって入ったのかという疑問が浮かぶが、たしかに少年はそこに存在していた。
声が聞こえる。
『貴方は誰……?』
少年の声じゃない。紛れも無い少女の声。年齢を表すなら、少年と同じくらいだろう。
『貴方は誰……?』
再度声が部屋の中で響いた。
今度は少年が口を開いた。
「知らない」
嘘じゃない。何故かこの部屋にいると、何も思い出せないのだ。
『貴方は――』
「知らない」
少女が言い終わる前に、少年は言葉を口にした。
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