第3章

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「そう言っていただけて嬉しいであります」 にこやかに微笑む母さんと黒い笑顔のテン。 その光景を見ていたら激しく違和感を覚えてしまう。 なんたって始めは渋っていた母さんが、テンが差し出したリュックの中身を見るなり手の平を返したように歓迎したのである。人間の世界は金とコネだと改めて実感する。 そんな2人を視界の端へ追いやり、僕は人知れず小さなため息をついた。 「あ、志郎」 談笑していた母さんが僕に声をかけた。なんですか母さん。小遣いの値上げなら大歓迎ですが。 「違う違う。あのね、お醤油が切れちゃったのよ。だから買ってきてお願いプリーズ」 両手を合わせて軽い調子で母さんは頼んできた。ま、いつもこんなノリなんですけどね。けっこう疲れるけどね。 「えーっ、志穂に頼めばいいだろ?」 顔をしかめて渋る僕に、母さんは悩ましげに手を頬に添える。 「あの子これから塾なのよ。だから暇な志郎しか頼りになる人がいないのよ。てわけで、ね」
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