第1章

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「こちら家猫2号。転移空間内での発砲を許可する。ただし逃げに専念せよ。転移空間内での戦闘は危険すぎる」 「こちら家猫1号。了解したであります」 *** 人はいったいどういう時に絶望するのだろう? スポーツマンなら人生を賭けた大会直前に体が故障したとき? 競馬で全額投入して負けたとき? 彼女にフラれたとき? それらも絶望だが、もっと簡単なことででも人は絶望してしまう。 例えばそう……大切にとっておいたアイスを妹に食べられたときとか? 「志穂おおおぉぉぉっ!」 気づいたときには信じられないほど低い声でにっくき仇を睨みつけていた。ソファーに寝転がる可愛い顔をした仇を。 性は桜木、名前は志穂(しほ)。僕と2つ違いの妹である。 「え……これお兄ちゃんのだったの?」 暑いのかして髪を頭頂部でまとめてお団子にしている志穂は、振り返るなりヌケヌケと言った。しかも右手に僕のアイス(1/4)を持ったまま。 無言で首を縦に振る。 志穂は真っ青な顔をしたまま僕を見て、僕は怒気をはらんだ目でアイスを見る。
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