『葬式に猫』

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目が覚めると、ベッドの上ではなく庭の生い茂った雑草の上だった。空を見上げれば、太陽の光が真上から突き刺すように私の体を火照らせる。 なんでこんなところに?っというよりも、体の変化に先に気付いてしまっていたので、そういう感覚はなかったが、不思議ではあった。 いつものように手を上げれば、短い前足が私の目の前に映るし、その手足の色は真っ黒で、隙間なく毛で覆われている。 そう私は猫だった。そして、この庭はおそらく私の過去の家だろう……。私が昔から、雑草の手入れを怠ったからすぐに察しが付く。 短い手足を動かし、家の窓を覗いてみる。中には暑い中喪服姿で何か着々と準備をしている人達の姿が捉えられた。仏壇にゆっくりと目をやる。 そこにいたのは、生前の私だった。仏壇の前の額縁飾られた『私』は、髪を肩まで伸ばした黒髪の、いかにも冴えない、野暮ったい二十前後の女だった。 そんな過去の私を見て、嫌な気持ちが小さい体の中に、感染するかのように徐々に広がっていく。 昔の自分の姿に幻滅したのだ。誰からも愛されない、好かれない、生きる価値を見失った女。そんな自分に嫌気がさした。
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