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とにかく、シャツきてズボン履いて、靴下靴下。
「はい」
エリリンは、両手に綺麗に丸めた黒い靴下と、たたんだネクタイを差し出した。
気がきくじゃねえか。
「さんきゅ」
俺は、靴下とネクタイをズボンのポケットにそれぞれ入れて、小脇に黒いカバンをはさんだ。そして、裸足のまま革靴を履いた。
「おにぎり入ってるからね」
エリリンの言葉も最後まで聞かずに家を出た。カンカンとアパートの鉄板の階段を一段とばしでおりる。
やべえ、走るか。自信ないけど。タクシーが見つかれば、それに乗ろう。
勢いよく走り出したものの、やっぱり撃沈。もう体力みなぎる高校を卒業して六年になるんだ。六年って、小学校入学して卒業するまでの間だろ? はい、無理です。
アパートを出て、大通りに出るまでの五分間で走るのをやめた。
おい止まれ、そら止まれ。俺は心に念じながら、タクシーに手をあげた。反対車線の方が、タクシーの通行量が多い。俺の住む所は観光地で、みんなタクシーに乗って、色んな名所をぐるぐる巡るのだ。
観光してんじゃねえ。俺は今から仕事だっつうの。俺は、諦めることなく手をあげつづけた。ちょい恥じぃ。
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