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たのむ、お願いだ、タクよとまれ。
きっと、俺の顔は必死だ。通り過ぎる車の、口を開けた運転手と目が合うくらいだったから。
やっと、願いがかなった。向こうの車線を走っていたタクシーが、立っていたコンビニの駐車場でUターンしてくれた。
神様、ありがとう。
タクシーの扉は、幸せへの扉のように開いた。
「すみません、カネコ堂化粧品販売会社まで、お願いします」
俺は隣にカバンを置いた。
「え? どこですって?」
おい、君はプロフェッショナルだろう。
「幸福神社の近くです」
「ああ、はいはい」
俺とあまり歳の変わらなそうな運転手が、小さく頷いた。
うちの会社よりも、幸福神社の方が有名だった。目と鼻の先なのに、みんな観光で行くのだろう。幸せになりたいのか。
そんなことを考えながら、俺は狭い車内で靴下をあくせくしながら履いて、サクッとネクタイを結んだ。
ああ、落ち着くと腹が減る――。
エリリンが作ったおにぎりを思いだした俺は、カバンを膝に乗せてファスナーを開いた。
目の前には、ぺたんこにうすーくなったラップのおにぎりが入っていた。ラップからはみ出た米が資料にへばりついている。
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