迷子

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 猫は自由を好みますね。チャコも例外ではありませんでした。幼かったわたしも、彼女が近所に出掛ける姿をちょくちょく目撃しましたから。  そんなチャコが初めて迷子になったのは、彼女が二歳になった冬。名前を呼んでも出てこなくて、親戚中で大捜索が展開され、わたしはそりゃあ心配しました。  恥ずかしい話、わたしは涙まで零したくらいですよ。  家には道路が隣接していましたから、車に轢かれた可能性も考えられます。夜になっても出てこなかったので、わたしも本当に希望を失いかけていました。  そんなときにチャコを見つけたのは母だったでしょうか。実は――チャコは家の中にいたんです。居間のポット置き場の下で穏やかな寝息を立てていました。  丸まって平和に眠る姿を見て、わたしもすっかり安心してしまいました。ポットではお湯を沸かしていましたから、多分温かさにつられたのでしょう。  かくして、初めてのチャコ失踪事件は無事に幕を下ろしました――  ええ、“初めての”チャコ失踪事件は。
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