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どれだけ飢えていたものか。この猫は恐らく、死んだ私の脳を食らったのです。それによって、私の意識がこの猫の意識に上書きされて、このような有様になってしまったのでしょう。
結果的には生き返ったような事になるのでしょうが、これでは住まいにも帰れません。第一、私は猫の渡世を知りません。これからどう生きれば良いのか。そもそも、死んだつもりが、こんな風に生き返るなんて。何て運の悪い。
自らの境遇を嘆きながら、私はふらふらと大通りへ出ました。猫の身になると人間はとても大きく、違う世界に迷い込んだようで、酷く恐ろしくなりました。それですぐに、別の路地裏に身を隠し、日が暮れて、人間が少なくなるのを待ちました。
何時間もじっとして、ようやく人通りが減った気配がしました。そろりそろりと表に出ると、もう空は薄暗く、街灯が数匹の羽虫を寄せていました。行く場所も戻る場所も無いのですが、そこに止どまっていても、どうなるものでもありません。あても無いまま、私はふらふらと歩き出しました。
もう脳は消化されたのか、とても空腹でした。喉も乾いていました。辺りの民家から漏れる夕飯の匂いと笑い声が、私をひどく惨めな気分にさせました。あんな風に、家族で笑いながら食卓を囲んだ事など、妹が生まれてから一度もありません。私はそういう場では徹底的に虐げられ、あげく無視されるだけの存在でした。家でなくても、学校でも居ないかの様に過ごし、友人も出来ず。とうとう耐えられず自殺して、成れの果てが猫。思わず笑ってしまう位、意味の無い人生です。
うなだれて人気の無い道を彷徨っていると、はるか後方からゴウゴウと音がしました。何かしらと振り返ると、こちらへ向かってくる車が見えました。黒い車体は夜闇に溶けて、ライトがふたつぎらぎらと、まるで化け物のようでした。
足がすくんで動けずに、ああ轢かれる、と思った時にはもう、私は道の端に飛ばされていました。右腕に、いえ、右の前足に血が滲んで、とっさに舐め取っていると、不意に脇の下に手を入れられて、そのまま誰かに抱き上げられました。
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