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 私のお母様は、とても美しいお方でした。絹糸でも敵わぬような滑らかな髪に、カナリアも恥じて歌を辞めるであろう声。お顔は高級なビスクドールを思わせ、その育ち故に立ち居振る舞いもたおやかで、華やかで。どこをどう探しても、全く悪い所の無いお方でした。家には殿方からの贈り物や恋文が毎日の如く押し寄せて、全て見るのも重労働だったとお聞きしております。そんなお母様を射止めたのは、さる財閥の令息であったお父様。こちらも道を歩けば誰もが振り向き、目の合った女性は必ず虜になってしまう程の美男子。  この二人が一緒になったのですから、どちらの親戚友人知人も、どんなに美しく才に溢れた子が授かるか、と期待していたそうでございます。  ところが、生まれたのはこの私でした。色黒で目は小さく、鼻は低くて豚のよう。新生児というのは、産みの母以外の人からすれば皆同じように見えるものなのでしょうが、誰もが一度で見分けられる程の醜さだったのです。  親戚友人知人らは皆落胆したといいますが、それでも両親だけは、何といっても自分の子だと、大層愛してくれたのです。そのおかげで私は、二歳までは何不自由無く幸せに生きておりました。
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