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 私の人生には、大きな転機が二度ございました。二度目は言うまでも無く、こうして猫になった事。一度目はこの二歳の時に、妹が誕生した事でした。  この妹、女神に宿るべき天使が、何かの手違いでお母様に宿ったのではと疑う程に美しかったのです。肌は透けてしまいそうに純白で、お母様と同じくビスクドールのような顔立ち。お父様から受けたであろう、栗色のふわふわした髪。私とは違った意味で、他の新生児とは抜きんでていたのです。  両親はとても喜び、妹を慈しみ、それと同時に私を酷くぞんざいに扱い始めました。  例えばお洋服。今までは次から次へと買い与えてくれていたのが、どうしようも無く汚れるか、成長に伴いあまりにサイズが合わなくなってようやく新しいものを一枚与えられるようになりました。妹には逆に、私の比ではない程大量のお洋服を与え、成長するのを見越した上で、ずっと先にならないと着ないようなお洋服まで買うのです。それは玩具においても同じでした。また食事についても差別され、何とかお腹を満たせるくらい、例えば小さなパン一つですとか、そのようなものしか口にさせて貰えなくなりました。私がそれを齧る横で、妹には高級な食事を豊富に与え、食後には果物やお菓子まで用意するのです。  幼いながら、この差別は悲しいものでした。お前さえいなければ、と妹を苛めようとした事もございます。しかし、妹の美しい顔と愛らしい仕草を目の当たりにすると、実際に苛める事などとても出来ませんでした。  これだけでも辛かったのですが、本当の地獄は、就学してから訪れたのです。  容姿に恵まれなかった私ですが、頭と家柄だけは良かったもので、名門といわれる小学校に入学しました。その入学式に、お母様は出席しませんでした。あの醜い子の母と思われたくない、と拒んだのです。故に私は、執事の竹中だけを従えて入学式をすませました。  友達など、一人も出来ませんでした。あからさまな苛めなどは無かったものの、誰一人として寄って来ないのです。勇気を出してこちらから話し掛けてみると、相手はいつも酷く嫌な顔をして、何も言わずに立ち去りました。  ああ、私は嫌われている。  そう確信し、学校ではいつも冬眠した亀の如く縮こまり、ただただ息を殺していました。
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