4/4
前へ
/15ページ
次へ
 そうやって二年が経ち、妹が同じ学校に入学しました。この時は母も着飾って入学式に出席し、この子を見てとばかり父兄に愛想を振り撒きました。妹も実に社交的に、あちこちから知らない大人に話し掛けられても物怖じせず、愛嬌を振り撒いていました。  翌日には、妹は学校中で噂になりました。持ち前の快活さで誰とも分け隔て無く話し、笑い、遊ぶ様は、姉の私から見てもさながら天使のようでした。  両親から虐げられていた私ですが、妹には妙に慕われておりました。家に居ても、妹だけは無邪気に私に寄って来て、隠しておいたお菓子をくれたりするのです。自分より劣る者に施す事で、いやらしい優越感を得ようとか、そういう思惑は微塵も無いようでした。単純に、私を姉として好いているのです。  だから学校でも、妹は何かと私にくっつきました。私を廊下で見付けると、ねえさまねえさまと手を振って、にこりと微笑みます。その様を見て、周りは酷く驚いていました。眼病の野良猫のように醜悪な私と、誰にも好かれる子猫のような妹が姉妹だなんて、信じられなかったのでしょう。  妹はどの学年においても人気者で、常に誰かと一緒に居ました。私のもとへ来る所も、たまにその誰かを引き連れてやってきました。私は妹を介して様々な人と知り合い、やっと友人と呼べる存在も出来たのです。  死んだような学校生活にも、少しは張りが出たものだ。私は少しだけ幸せでいました。たまたま廊下で立ち話をしていた友人達の、 「信じられない事だけど、あいつはあの子の姉。適当に優しくしておけば、あの子にもっと好かれるわ」  という言葉を耳にするまでは。  それは、足元が崩れ落ちるかと思う程に絶望的な事でした。私は友人でも、ましてや人でもなく、妹に近付く為の踏台でしか無かったのです。  いっそ妹に八つ当たりなり、せめて恨み言の一つも吐ければ、少しは楽になったでしょう。しかし、やはり出来ないのです。ねえさま、と笑う妹に、不細工なりに微笑み返すしか、私には出来ませんでした。私は妹が疎ましくて、それよりもずっと妹が好きでした。笑顔も仕草も心根も、妹の全てが好きでした。  一度は目覚めた私は、再び冬眠した亀のような有様まで戻ってしまいました。こんな事ならば、始めから偽りの充実など感じなければ良かったとさえ思いながら。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加