別れ

18/21
5745人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
大きな事件よりも、どこかの国の戦争よりも、僕の小さな死を、こんなにも悲しんでくれている人がいる。 後悔や悲しみの入り混じったどうにもならない思いを、たった一人で抱え込んでくれている人がいる。 そしてその人を、不謹慎なことに、とても愛おしいと感じてしまう僕がいる。 嬉しいと思ってしまう心がある。 伝えられなかった言葉なら、もう伝わっているよ。 君の気持ちなら、もう十分すぎるほど理解しているよ。 後悔の痛みは、僕だって同じだ。 人間だった頃から猫である今まで、ずっと伝えたくてたまらなかった。 だけど、どうにも伝えられなくなってしまった。 それでも、ゆきには理解してもらえなくても、伝わらないとしても、伝えたくてたまらないよ。 僕は人間なんだというプライドで猫であるくせに鳴かないなんて、そんなものはただの独りよがりだ。 そのプライドを貫いたところで、納得できるのは僕自身しかいない。 かといって、たとえこの声でも、伝わらなくても、ゆきに思いを伝えたいというのも、かなりの独りよがりだと思うけれどね。 それでも、どうせどっちにしろ独りよがりなら、最善の独りよがりを選ぼうと、僕は思ったんだ。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!