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大きな事件よりも、どこかの国の戦争よりも、僕の小さな死を、こんなにも悲しんでくれている人がいる。
後悔や悲しみの入り混じったどうにもならない思いを、たった一人で抱え込んでくれている人がいる。
そしてその人を、不謹慎なことに、とても愛おしいと感じてしまう僕がいる。
嬉しいと思ってしまう心がある。
伝えられなかった言葉なら、もう伝わっているよ。
君の気持ちなら、もう十分すぎるほど理解しているよ。
後悔の痛みは、僕だって同じだ。
人間だった頃から猫である今まで、ずっと伝えたくてたまらなかった。
だけど、どうにも伝えられなくなってしまった。
それでも、ゆきには理解してもらえなくても、伝わらないとしても、伝えたくてたまらないよ。
僕は人間なんだというプライドで猫であるくせに鳴かないなんて、そんなものはただの独りよがりだ。
そのプライドを貫いたところで、納得できるのは僕自身しかいない。
かといって、たとえこの声でも、伝わらなくても、ゆきに思いを伝えたいというのも、かなりの独りよがりだと思うけれどね。
それでも、どうせどっちにしろ独りよがりなら、最善の独りよがりを選ぼうと、僕は思ったんだ。
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