episode1

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 綺麗だ。きっときみはそう言うね。若草に覆われた緑一面の土手やそのすぐそばのキラリと空を映す川を見たら、そう言うんだ。本当に、すてき。澄んだ優しい声でうっとりと瞳を揺らす。そして、そっと、ふんわりと包むようにわたしの手を握る。  そんな、すてきな幼なじみの男の子が欲しかった。線が細くて繊細、そして綺麗な幼なじみと恋をしてみたかった。残念。そんな幼なじみはいませんでした。好き、もよく分からないまま、夢の中だけで憧れを抱き、わたしは一人、土手の上を歩いている。  高校の一年目も何もないまま早々と終わりを告げ、明日から春休みだ。 「綺麗だ、かあ」 緑の中でひっそりと、それでいて堂々と咲き誇るタンポポに話し掛けた。彼女は呆れてため息を吐くように風に揺れた。ちょっと、悔しい。空を見上げても、その青はすぐそこにあって指で拭うことができそうなのに、到底そんなことはできない。ああ、夢の中の憧れのきみ。幼なじみはもう無理だけど、転校生というシチュエーションででも出てきてくれない?  わたしは誰にも握られていない手を大きく上げて、背伸びをした。
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