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星が煌めく、雲一つない漆黒の闇が支配する夜。
どこからか、音をも吸い込むであろう闇の中、泣き声が響いている。
一つの家――家、というより『城』と形容したほうが正しいだろう――から、産声が聞こえる。
この世にまた一つ、新たな生が誕生したようだ。
「オルマ! 生まれたか! よくやった!」
不精髭を生やした精悍な顔付きの男性が部屋に入ってきた。
オルマと呼ばれた女性はニッコリ微笑み、
「ええ、あなたも早く抱いてあげてくださいな。とてもかわいらしいわよ」
腕の中の生まれたばかりの小さな子供達を夫と思われる男性に手渡した。
壊れ物を扱うような手つきで、二人の子を抱く。
「おお、本当にかわいいな……。どちらがどちらなんだ?」
オルマと呼ばれた妻であろう女性は、「せっかちなんだから」とクスクス笑いながら
「右腕に抱かれているのが男の子。生まれた順でお兄さんよ。左腕の子が女の子。妹になるわ」
「そうかそうか」と頷きながら、愛おしそうに二人を見つめていた。
「名前は前から決めていたのでいいな?」
妻――オルマに聞いた。
「いいんじゃないですか? かわいらしい名前ですし」
「ふむ、なら二人の名前は『ソウル』と『レンリエッタ』だ!」
二人の子供達も気に入ったのか、キャッキャ言っている。
「そうかそうか! そんなに嬉しいか! 父さんも嬉しいぞ!」
この家族は今、幸せの絶頂だろう。
だからこそ、想像なんてしていないだろう。
明日、悲観と落胆が襲うことを――
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