壱.

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        ―――――――――――ハッ!              彼は目覚めた。     翡翠の瞳がぼんやりと宙をさまよう。 なにかを探しているのかのように部屋を見わたしていたそれは、部屋の隅の机に遠慮がちにそろえられた本をとらえた。いや、正確には本の上にころりと転がっている美しい耳飾りを。 吸い寄せられるようにしばしその艶やかな輝きを見つめた彼は、ゆっくりとまばたきをした。瞼の動きにつられてなだらかな額を汗が伝う。   「・・・・・ゆめ・・・・・・・・・・」   数泊の後にはあ、と深く息を吐き額に張りついた髪をかきあげる。   窓の外はまだまだ暗い。 当然喧騒を生みだす人間は活動を停止している夜中だ。野鳥が鳴く声が時折聞こえるだけの静かな時間。   月すらも雲にさらわれた寂しい闇の中、もう眠る気になどなれない。 汗を吸って生暖かくなった敷布から腕をあげると、長い糸のようなものがくっついていた。髪だ。 闇色とは程遠い色彩をしたそれに、またひとつ瞬いた。   「・・・・・は、くだらない」   苛立たしさも手伝っていつになく手荒に紐で纏めるとブチブチと数本がちぎれた。太陽のような明るく細い髪が中途半端な長さで寝台に落ちるのを冷ややかに一瞥する。・・・・・異能の髪を放っておくわけがないのだ、どうせ勝手に回収にくる。   衣ずれもたてずに起き上がり、広すぎる寝室をあとにした。   (着替えよう・・・・・。)   全身、汗でびっしょりだ。
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