壱.

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ズガガガガァァァン.. それは早朝のことだった。 結局あれから眠れず、ずっと仕事をしていた彼は、本邸のほうから聞こえた地響きのような轟音に筆をおいた。カタカタと衝撃が窓ガラスを鳴らす。茶碗の中の桃色の液体が波紋をひろげた。   一見すると地震のようだが、これは間違いなく人災だと彼は熟知している。 盛大なため息とともに明るい長髪をかきあげる。 「とーしゅんさまっ!」 バァン!と扉を破壊せんとする勢いで室に飛び込んできた少女をみて、橙舜はギョッとした。 「どうしたんだい、その頭」 「リンさんにやってもらったの!」 かわいい?かわいい?と花がふんだんに飾られた頭を見せてくる。大きい百合の花まで刺さっているそれは、もはや生い茂っているようにもみえるのだが。笑って頷けば両手をあげて喜んでいる。 ああ花が落ちてしまうよ、と飾り紐を縛り直してあげれば、頬を桃色に染めてはにかんだ。 ニコニコと屈託なく笑う様はとてもかわいらしい。 彼女はカナンといって最近露秦にきたばかりの身無し子だ。
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