壱.

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まぁ橙舜も、媚びへつらう爺どもが好きな訳もないので、屋敷に被害が及ばない限り放っておくのだから同罪かもしれない。 橙舜はふと扉に視線を移した。 「ところで、懍は?」 開けっ放しの扉から続く長い回廊にはひとの気配はない。 面倒見のよい彼女が預かり物(カナン)から離れるなんて珍しいを通り越して心配になる。 「きゅんちゃん連れてどっか行っちゃったの。とーしゅんさまのとこにいってなさいって」 きゅんちゃんとは懍の相棒ともいえる化け猫のことだ。 ということは、おそらく今頃は懍や里眞が止めに入っているだろう。ご苦労なことだ。 その女性陣の苦労を偲んで、橙舜はしばし子守をかって出てやるのだった。 「そう。じゃお茶にしようか?」 桃のお茶と美味しいお菓子があるんだよ、というと少女は歓声をあげた。 その様子に小首を傾げて微笑むと、窓から差しこむ日の光に彼の瞳とおなじ翡翠の耳飾りが煌めいた。
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