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状況説明。と言いたいところだが、そんな悠長に解説している暇など当時の俺にはなかった。
とにかく足を動かすのに精一杯だ。頭の方に使う余力など皆無に等しい。
欠落した船内で俺は、契約だと勝手に解釈させて追いかけて来る刺客とひたすらに鬼ごっこをやらされているのだ。
現実なら逃避したい。
悪い夢なら覚めてくれ。
「おお、あたしをどこに連れて行くのじゃ?」
俺の掴んでいる腕の方からしわくちゃの声が漏れてきた。馬鹿な?俺は振り向く。
そこには見知らぬ老婆が息を切らしてこちらを見ていた。
何と言う失態だ。俺はシワだらけの腕を咄嗟に放す。
「お待ちなさい。逃げ場なんてないの」
刺客が姿を現した。駄目だ船の中にいては確実に捕まる。
春奈のことは諦めるしかない。ターゲットは俺だから首を取られる心配はないだろう。
とにかく脱出路を見つけることに専念しよう。外に出れば逃げる領域が広まるはずだ。
老婆には悪いが置き去りになってもらい、出口の探索を開始する。たとえ夢でも死ぬのは御免だ。
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