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空気が重い。視界が薄暗い。額には冷汗。死神の声だけが響き渡る。
「隠れたって無駄。契約には逆らえないわ」
何なんだ一体?何故俺がこんなにも畏まらなければならないんだ?契約?知るかそんなもん。
死神の気配がにじり寄って来る。もう気付かれたのか?いや最初から見通されてたのだろう。迫る足音には迷いがない。
最悪だ。戦場でも病院の薬品臭いベッドの上でもなく、初めて訪れた陰気な墓場で絶命するのかと思うと、悲観的な考えしか持てない自分に罪悪感までもが募る。
そんなネガティブ思考になった俺にはもう逃げようと思う気持ちはなかった。こんな場所にいるせいか生きようともがく精神も今や風前の灯火だ。
視線を感じる。同時に殺気も。頸動脈あたりに意識が集中する。既に身構える準備は出来ていた。
その瞬間。
突如背後から溢れる閃光の嵐。予想外の眼球への攻撃に目が眩む。俯せで前に倒れ込んだ拍子に首筋に手をあてた。頸動脈は無事らしい。
視力を取り戻すのにしばらく時間を要した。光源を腕で遮りながらも俺は振り返る。
墓石が光っている。そしてその上に浮遊している少女が目に入った。死神ではない。小顔で褐色の瞳。俺とは同年代くらいだろうか。腰まである焦げ茶色のストレートヘアーの見知らぬ少女がこちらを見ている。
「誠悟。私はずっと貴方を待ってたよ。会えて嬉しいな」
待っていた?透き通るような声をかけてきたその少女は優しく微笑む。
「あの、どこかで会ったことある?」
俺は尋ねた。一瞬彼女が透けてるように見えたが見間違いか?
「直接会うのは初めて。でも私は誠悟のことをずっと見てたよ」
何だ?こちらを見ながら彼女はクスクスと笑う。何が面白いのかさっぱりだ。
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