10人が本棚に入れています
本棚に追加
「諦めなさい。幽霊風情が死神に逆らえると思ったの?」
死神は嘲笑うかのように幽霊少女を見下す。既に勝ち誇った顔をしてやがる。
「う……」
負傷した幽霊少女の右腕からは赤い液体が滴り落ちている。見ていて痛々しい限りだ。
「これで終わりにするわ!死になさい!」
死神が構えのポーズになった。もう見てられねぇ!
無謀にも俺は二人のいる危険地帯に向かって走り出す。何も出来ないことは頭の方ではわかっていた。だが人間は理性だけで生きている生物ではない。たとえ幽霊だろうと傷付いた少女を助けずに自分の安全の確保だけ心配する男がいたら、俺はそいつを本気でぶん殴ってやるね。人間だからとか死神だからとか、そんな理屈はどうだって良いんだ。ただ目の前のことだけを直視しろ。と、俺の本能は言いたかった。
二人との距離が狭まっていく。何をするとか、何をしたいのかなんて考えてすらない。勢いってやつだ。
「誠悟!来ちゃ駄目!」
幽霊の声は見事に俺の耳を素通りした。ここから先は意識が曖昧だったのか覚えていない。
気付いた時には、幽霊少女を己の懐に匿いながら地面に倒れている状態だった。幽霊のくせに不思議と接触感がある。
「大丈夫か?」
俺は起き上がって幽霊少女に声をかけた。
「どうして庇ったの?」
「怪我人にこれ以上無茶はさせられない。それに君は女だろ」
「私は人間じゃなくて幽霊だから。男とか女とかは関係ないのよ」
少し俯きながら彼女は言った。褐色の眼から苦悩が見え隠れしたのは錯覚だったのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!