Monster

3/34
前へ
/34ページ
次へ
ふいに、音がした。 背筋に舌を這わされるような不快感が、彼の足を止めた。 また、音。 柔らかいものを引き裂くような音に、流れ出す液体の湿った音。 耳をすませると、雑居ビルと雑居ビルの間の路地から、音は断続的に漏れ出てくる。 路地の奥は、澱のような闇があるせいで見えない。 彼の本能が警鐘を鳴らした。 ――逃げろ、と。 しかし彼はそれを無視した。無視すべきでないと薄々気付きながらも、街灯に引き寄せられる蛾のように、路地の闇をかき分けていった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加