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路地は予想以上に暗い。今夜は雲が分厚く、街灯の光もほとんど入ってこない。
路地の奥へ一歩ずつ進んでゆくと、倒れている人影のようなものが見えた。
何かあったのだろうかと思った彼は、早足で彼に駆け寄り――足に液体の跳ねるような感触を感じた。
水溜まりだろうか? しかし、ここ数日雨は降っていない。
不思議に思っていると、ふいに雲が途切れた。
弱々しい月明かりが路地にも差し込み、人影を照らし出した。
「…………!」
いや、それはすでに人影ではなかった。人の形をしていた何かだった。
頭は完璧に破壊され、砕けた頭蓋から溢れだした脳漿に脳髄の欠片と眼球が浮いている。
胴体は前面の皮膚をことごとく剥がされ、へし折られた肋骨が、はみ出た腸が、胃が、肝臓が、その他得体の知れない諸々の臓器が血の海に散乱している。
さらに、四肢は根元からもぎ取られ、針金のように無茶苦茶に折り曲げられた挙げ句、乱雑に引きちぎられて、不揃いな肉塊と成り果てていた。
それらを彩るように、大輪の薔薇のような血溜まりが、あたりの地面を鮮やかな深紅に染め上げていた。
顔立ちはおろか、性別すら分からないほど、完膚無きまでに破壊された人間の残骸がそこにあった。
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