-第4章-

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『琴音、準備は出来たかね。』 琴音の父、雫石誠(しずくいしまこと)は優しいゆっくりとした口調で言った。 代々医者家系で裕福に育った誠は、温和な性格で人の話を笑顔で静かに聞き、優しい眼差しと広い心を持つ暖かい人であった。 そのため、麻布十番の中心にある《雫石クリニック》は評判が良く、患者さんの足が絶えることはなかった。 『出来ました、お父様。今年も楽しめると言いなぁ。』 『楽しめるさ。去年の滑りを忘れてないと言いな、ははは。』 誠と琴音は家の前に止められてある車に向かった。 その大きなリムジンの中にはすでに支度を終えた実と真広がいた。 『雫石さん、おはようございます。いつもうちの家内がお世話になってます。』 『どうも、五条さん。うちのこそいつも仲良くしてもらってるみたいで。』 『実おじさん、おはようございます。』 『やぁコトちゃん久しぶりだね。おはよう、さぁ乗りなさい。』 そんなやりとりをして、誠と琴音も車に乗り込み、残り2人を待った。 10分後、ほぼ同時に母親達が小走りで車に駆け寄ってきた。 雫石ひろねと五条さつきは顔を見合わすなり笑顔で挨拶をし合い、五条家の家政婦、加藤のぶえに見送られながら車に乗り込んだ。 『高橋くん、出発だ。』 『はい、かしこまりました。』 執事の高橋は実に頷くと、大きなリムジンを走らせ始めた。 -平成17年12月28日- こうして10回目となるスキー旅行は始まった。
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