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『琴音、準備は出来たかね。』
琴音の父、雫石誠(しずくいしまこと)は優しいゆっくりとした口調で言った。
代々医者家系で裕福に育った誠は、温和な性格で人の話を笑顔で静かに聞き、優しい眼差しと広い心を持つ暖かい人であった。
そのため、麻布十番の中心にある《雫石クリニック》は評判が良く、患者さんの足が絶えることはなかった。
『出来ました、お父様。今年も楽しめると言いなぁ。』
『楽しめるさ。去年の滑りを忘れてないと言いな、ははは。』
誠と琴音は家の前に止められてある車に向かった。
その大きなリムジンの中にはすでに支度を終えた実と真広がいた。
『雫石さん、おはようございます。いつもうちの家内がお世話になってます。』
『どうも、五条さん。うちのこそいつも仲良くしてもらってるみたいで。』
『実おじさん、おはようございます。』
『やぁコトちゃん久しぶりだね。おはよう、さぁ乗りなさい。』
そんなやりとりをして、誠と琴音も車に乗り込み、残り2人を待った。
10分後、ほぼ同時に母親達が小走りで車に駆け寄ってきた。
雫石ひろねと五条さつきは顔を見合わすなり笑顔で挨拶をし合い、五条家の家政婦、加藤のぶえに見送られながら車に乗り込んだ。
『高橋くん、出発だ。』
『はい、かしこまりました。』
執事の高橋は実に頷くと、大きなリムジンを走らせ始めた。
-平成17年12月28日-
こうして10回目となるスキー旅行は始まった。
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