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桜木の心臓は緊張と興奮で今にも飛び出しそうなほど高鳴っていた。
(…あの光は、一体?なんだったんだ。)
桜木は真広に投げ飛ばされた衝撃で受けた右肩の痛みに耐えながらとりあえずその場を去った。
『どっちに入るの?』
トイレの前で2人は悩んでいた。
『やっぱり俺がこっちでお前があっちだろ。』
『ぇ、でも…』
『とりあえず今は鏡がみたいだろ?』
2人は戸惑いながらも、それぞれトイレに入っていった。
『なんでこうなるんだよ…』
真広は鏡の中にある顔を見つめながら呟いた。
そこに映っていたのは、父親ゆずりの高い鼻ときりっとした目ではなく、くっきり二重の瞳と可愛らしい鼻であった。
真広はトイレから出ると琴音が気になった。
(…琴音、大丈夫かな。)
男子トイレから出てきた琴音は既に涙声になっていた。
『何がどうなってるの?どうしよう、どうして私が真広君になって真広君が私なの?』
そう叫んだとき、通りすがりのオバサンが、まるで天然記念物を見るかのように2人に視線を向けた。
それに気づいた真広は隠れるように視線をかわすと、オバサンが居なくなるのを確認してから琴音の肩に手を置き、真剣な表情で口を開いた。
『いいか琴音、俺たちは入れ替わったんだ。何がなんだか分からないが、おそらく中身だけが入れ替わったらしい。今は他人から見たら俺が女で琴音が男だ。とりあえずはこの状態が元に戻るまで、言葉遣いや仕草も周りにばれないようにしないと………おぃっ、今何時だ?』
琴音は今にも泣きそうな顔で頷きながらロビーの時計を見ると5時よと呟いた。
『まずいな…親が起きるな。…仕方ない。とりあえず俺が琴音の部屋に戻って琴音は俺の部屋だ。親たちが起きる前に…。…琴音、今から男言葉で話すんだ。いいか?親の前でもだ。』
『…なんで?お父様達に言いましょうよ。』
『…こんな話、信じると思うか?』
『そうよね…分かった。私は真広。頑張るぜ…やだ、これで良いのかしら。』
真広は心配な気持ちを隠せなかったが何も言わず、部屋に向かうよう琴音を促した。
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