-第5章-

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『僕、おい、聞こえるか?これ、見えるか?』 実は一週間以上飲まず食わずで街をさ迷い続け、ついに脱水状態に陥っていた。 公園で倒れているのを発見され、救急隊が駆けつけていた。 『オトン…オカン…。』 ただ一言発されたその言葉を聞いた救急隊は野次馬に場所を開けるよう指示し、実をタンカーに乗せた。 『…まだ意識がある!急ぐぞ!すみませんが道を開けて下さい!!!』 『ほら、どいて!!』 救急隊員が車の扉を閉めようとした時、1人の中年女性が言った。 『…私も乗ります!この子の知り合いなんです。』 救急隊は疑いの目で女性を一瞥すると、早く乗るよう促し、運転手に出発の合図をした。 ピーポーピーポー 『…頑張って、頑張るのよ!』 その女性は意識を失いかけている実の手を握り、ひたすら声をかけ続けていた。 意識朦朧(もうろう)とする中、実は暖かいその手を愛おしく思った。 母親のぬくもりを思い出していた。
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