-第5章-

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そう言うと、雫石優は実に背を向け歩き出し、扉を開けて、やぁこっちやと言いながら人を招き入れた。 陰から現れたのは体格の良い、一人の女性だった。 『実くんは、記憶をちびっとなくしてやはるかもしれまへん。』 雫石優の言葉に頷き、その女性は実に近付き声をかけてきた。 『実くん、私を覚えてるかしら?』 実は彼女の声を聞いた瞬間、思い出した。 『救急車で…』 『そう、そうよ。』 その女性は嬉しそうに笑顔になり、雫石優に席を外してくれるよう頼んだ。 しかし、実には以前にこの女性と関わった記憶はなかった。 『…あの、申し訳へんやけど、俺…』 実の言葉を遮りその女性は興奮気味に言った。 『実くん、あなたは今断片的に記憶喪失になっているみたい。私はあなたの叔母よ。』 実は記憶を失ってはいないはずだ。 (この人何言ってるんやろ。俺の叔母はとっくの昔に病気で死んでもうたもん。) 『でも大丈夫よ。少しずつで良いから思い出しましょ。』 (…それとも、もしかして今までの事が全部俺の記憶違いか…いや、そへんなはずはない。) 『実くん、お腹空かない?何か食べる?』 『…あ、いや。うん。』 実は自分が分からなくなっていた。もしかしたら、自分は五条実ではない誰かで、本当は父親も母親ももとからいないのかもしれない。 何故か、はっきりとした記憶を思い出せなくなっていた。
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