-第7章-

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-1年半後- ついに、それは起きた。 『おはよう。』 『おはよう。』 琴音と真広はいつも通りの挨拶をして歩き出した。 あのスキー旅行からついに二年が過ぎていた。 『もうすぐ高校卒業だね。』 真広が遠くを見ながら言うが、琴音は何も答えない。 それに気付いた真広は琴音に聞いた。 『どうしたの?なんか今日元気ない?』 真広が琴音に聞くと、意外な言葉が返ってきた。 『ん?そんな事ないよ?いつも通りだよ。それより、真広くんの方が元気ないんじゃない?』 『…え??…琴音?今、何て…言った?』 『え?何って?真広くんが元気ないって言ったわ。』 (…うそ。どうしちゃったの。) 琴音は、“真広くん”と呼んだのだ。 真広はいつもの男っぽい口調ではない琴音に動揺した。 中身が入れ替わってから、私以外では女の子になりきっていたが、真広の前だけでは必ず男の子に戻っていたはずだ。 (…おかしい。) 『琴音、ちょっと良い?』 『…え?真広くん?』 真広は琴音の手をつかみ走り出すと、いつもの公園にむかった。 2人は息を切らし、公園に着くとベンチに座った。 『…いったいどうしたの?今日の真広くん変だわ。』 『…!!変なのは琴音だよ!?いきなりどうしちゃったの?何でいきなり真広くんて呼ぶの?忘れちゃったの?』 迫力ある声に、琴音はあきらかに怯え、今にも泣きそうであった。 『忘れたって何を?分からないわ…ごめんなさい。』 真広は言葉を失った。 琴音は、忘れている。 自分が真広である事を忘れているのだ。 『…琴音、驚かせてごめんなさい。でも、大切な事なの。二年前のスキー旅行の事覚えてない?そこであった出来事、覚えてない?』 琴音は、女の子らしい仕草で必死に思いだそうとしている。 『ごめんなさい、私たちスキーなんていったかしら?』 『…うそ…でしょ。』 真広は涙を流した。 それは、今まで流したことのない、本当に冷たい涙だった。 『真広くん?どうしたの?私なにかした?ごめんなさい…真広くん…』 真広は何も言わず、そこを飛び出した。 真広はついに、独りになってしまった。
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