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-1年半後-
ついに、それは起きた。
『おはよう。』
『おはよう。』
琴音と真広はいつも通りの挨拶をして歩き出した。
あのスキー旅行からついに二年が過ぎていた。
『もうすぐ高校卒業だね。』
真広が遠くを見ながら言うが、琴音は何も答えない。
それに気付いた真広は琴音に聞いた。
『どうしたの?なんか今日元気ない?』
真広が琴音に聞くと、意外な言葉が返ってきた。
『ん?そんな事ないよ?いつも通りだよ。それより、真広くんの方が元気ないんじゃない?』
『…え??…琴音?今、何て…言った?』
『え?何って?真広くんが元気ないって言ったわ。』
(…うそ。どうしちゃったの。)
琴音は、“真広くん”と呼んだのだ。
真広はいつもの男っぽい口調ではない琴音に動揺した。
中身が入れ替わってから、私以外では女の子になりきっていたが、真広の前だけでは必ず男の子に戻っていたはずだ。
(…おかしい。)
『琴音、ちょっと良い?』
『…え?真広くん?』
真広は琴音の手をつかみ走り出すと、いつもの公園にむかった。
2人は息を切らし、公園に着くとベンチに座った。
『…いったいどうしたの?今日の真広くん変だわ。』
『…!!変なのは琴音だよ!?いきなりどうしちゃったの?何でいきなり真広くんて呼ぶの?忘れちゃったの?』
迫力ある声に、琴音はあきらかに怯え、今にも泣きそうであった。
『忘れたって何を?分からないわ…ごめんなさい。』
真広は言葉を失った。
琴音は、忘れている。
自分が真広である事を忘れているのだ。
『…琴音、驚かせてごめんなさい。でも、大切な事なの。二年前のスキー旅行の事覚えてない?そこであった出来事、覚えてない?』
琴音は、女の子らしい仕草で必死に思いだそうとしている。
『ごめんなさい、私たちスキーなんていったかしら?』
『…うそ…でしょ。』
真広は涙を流した。
それは、今まで流したことのない、本当に冷たい涙だった。
『真広くん?どうしたの?私なにかした?ごめんなさい…真広くん…』
真広は何も言わず、そこを飛び出した。
真広はついに、独りになってしまった。
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