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『あはは、そうだな。』
ひろねは笑顔で誠を見つめ、誠の手から取ったコートと鞄をのぶえに渡し、ご飯にしましょうと言いながらリビングに歩き出した。
リビングに着くと既に準備を終え席に着く琴音がいた。
『お父様、おかえりなさい。温かいうちに食べましょう。』
誠はその笑顔に、何度も救われてきた。
仕事で行き詰まった時、失敗した時、ひろねの機嫌を損ねてしまった時、いつも娘の笑顔に癒されていた。
しかし、その日違った。
(琴音?いつものあの優しくて太陽のように明るい笑顔はどうしたんだ。)
誠は琴音を前に立ち尽くし、固まっていた。
『…お父様?どうしたの?』
琴音の言葉にハッと息をのみ、所定の位置に座った。
『いやいや。すまん、なんでもない。さて、ご飯にするか。待たせてしまったね。ほら、のぶえさんも座りなさい。』
誠はいつもの優しい笑顔で言っていたが、心の中は動揺していた。
ひろねと琴音をいつもと違うと感じてしまっている自分が信じられなかった。
夕食を終えると、誠は酒に手を伸ばすことなく風呂に向かうことにした。
『すまない、今日は少し疲れてね。先に風呂入って寝かせてもらうよ。』
誠がひろねに言うと、ひろねは笑顔で納得し、酒を片付けた。
のぶえによって既に沸かされた風呂に入ると、誠は久しぶりに頭痛を感じた。
(…いったいどうしたんだ、俺は。何かがおかしい。なぜ琴音をいつもと違うと感じてしまったんだ。違うわけがないのに…。)
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