-第8章-

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誠は、新幹線のホームに立っていた。 ひかり105の6号車の6番。 新幹線が到着し、指定された席へ向かうとそのボックス席には全身を黒いコートで覆った老人が座っているだけだった。 誠は小さなため息と共に着席した。 (春だというのにこの人は暑くないのだろうか。…まぁいい。そんな事より、今日はひろねに嘘をついてしまった。学会発表だって言ってしまった。) 誠は罪悪感でいっぱいになりながら、ホームで買った缶コーヒーを口に運んでいた。 『あなたは試練を乗り越える勇気と強い心を持っていますか。』 不意に、隣から声がした。 その老人は誠を見ると真剣な眼差しで聞いてきた。 誠は訳が分からず、苦笑いでその場をやり過ごそうとした。 『私は、世界中を回っている占い師です。いきなり驚かせたらごめんなさい。ただ、アナタから何か大きなものを感じたから、占ってみたくなったのです。あなたはこれから大きな試練にぶつかります。それを乗り越えられるかはあなた次第。これを持って行きなさい。』 占い師と名乗る老人は一方的に話し、半ば強制的に小さな巾着袋を渡してきた。 誠は思わず頑張ります、と言いその巾着袋を手にした。 タララララン 電子音が鳴り響き、誠は目を覚ました。 電光掲示板に“まもなく静岡”と流れていた。 誠は熟睡してしまっていたようである。 『寝てしまったかな。』 そう言いながら隣を見ると、さっきの老人が既にいなかった。 途中に、下車駅はあっただろうか。 誠は嫌な汗をかいた。 慌てて自分のポケットに手を入れ確認してみた。 そこには、当たり前のように巾着袋が入っていた。
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