-第3章-

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…キーンコーンカーンコーン… …キーンコーンカーンコーン… そのチャィムは悪い知らせと良い知らせ両方の役割を持つ。 学校での悪夢の始まりと終わりである。 下駄箱で琴音と別れた真広は重い足取りで教室に向かった。 教室に入ると、一斉に多くの視線を浴びる。 『五条君、おはよぉ。』 毎朝必ず声を掛けてくるのは人形のように大きな瞳とパーマかかったロングヘアーを持ち、学内の美女コンテスト第2位の白石杏樹(しらいしあんじゅ)であった。 『あぁ、白石さんおはようございます。』 真広は丁寧すぎるお辞儀をして自分の席に着いた。 杏樹は真広の机にひじを突き、自分の好きな事、嫌いな事、飼っている猫の事、近所のオバサンの事など永遠に話しかけてきた。 真広は分かっていた。 杏樹は自分に好意を抱いているわけではない。 珍しいのだ。 女言葉を使い、女らしい仕草を見せる男の真広に興味津々なのである。 『ねぇね、五条君て女優さんと男優さんならどっちに興味があるの?』 『え、うーん。どっちもかなぁ。』 『そっかぁ。じゃぁさ、少女マンガとジャンプはどっちが好き?』 『あんまりマンガ読まないから分からないや、ごめんなさい。』 期待していた返答を得られず、明らかに膨れた顔で真広を見下ろすと、杏樹は他の少女の輪に戻っていった。 真広は耐えた。 私はオカマなんだ、オカマと思ってもらえればいい。 いくら自分を捨てたからって上半身裸になったり男の子と一緒にトイレに行く勇気はない。 『真広くーん。』 昼休みになると必ず琴音が現れる。 学内での琴音は朝の登校時とは別人のように女らしく、上品であった。 『あ、雫石さんだぞ。』 『ほんとだ。やっぱ可愛いなぁ。』 クラスの男の子たちがひそひそ話を始める。 色白で背が小さく、くっきり二重の瞳と高すぎず低すぎない鼻は可愛らしく、ほんのり茶色いストレートの髪は上品さを一層際立てていた。 その可愛らしさから、学内の美女コンテストならぬ美少女コンテスト、つまり美しさではなく可愛らしさ部門で第1位という賞をもらっていた。
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