現世。

2/3

1011人が本棚に入れています
本棚に追加
/581ページ
「生まれ変わってもまた君の恋人になれるかな」 寂しそうに彼が私を見た。 私は林檎をむく作業を止めずに反応しない。 「生まれ変わりとか、輪廻とか君は信じないの?」 穏やかな笑顔で聞く彼に腹が立った。 私はガチャンと無造作にお皿に林檎を置くと彼を睨みつけた。 「生まれ変わっても、とか輪廻とかより」 私は彼の痩せ細った手を見つめた。 「早く元気になって……、『今』に心残りがないくらい生きようとは思わないの!?」 なんで、諦めちゃうの!? なんでそんな寂しそうな顔するの!? 「ちゃんと今を生きたら、 私の事なんて飽きる程に傍にいたら、 生まれ変わりたいなんて思わないよ!!」 私は林檎の甘い匂いが仄かにする手で、慌てて涙を拭った。 「最近、君の笑顔見なくなった」 彼は辛そうに起き上がると、優しく手の甲で私の涙を拭った。 「君の、笑顔が見たい」 今にも泣き出しそうな顔。 私の笑顔? 何で見せなきゃいけないの。 こんな真っ白な病室で。 貴方の命を助けているのか、カウントダウンを刻んでいるのか分からない機械に囲まれて。 点滴を打って青白い貴方のそばで。
/581ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1011人が本棚に入れています
本棚に追加