恋愛の話。

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少女はよく笑い、よく喋り、とても素直で良い人だった。 私より一つ年下のはずなのに、少女は余りにも純粋すぎた。 「ねぇ、貴方の得意な事って何?」 楽しそうに私は笑いながらも、彼の条件を忘れてはいなかった。 すると少女の顔はいきなり曇った。 無邪気で純粋そうな瞳を暗く歪めて。 「私には『歌』しかないよ」 寂しそうに、つまらなそうに。 退屈そうに、嘆きながら。 「歌……?」 少女は、聞いてみる?って聞いてきた。 私が頷くと、マフラーをとった。 ゆっくりと少女の口から音が漏れた。 あぁ……… 『時』が止まった。 遠くに聞こえた車の音も、鳥の鳴く声さえも、 この少女の声の前には、皆何も敵わない。 ――優しくて ――透き通っていて ――純粋で ――澄みきっていて ポトン ポトリ ポト 私は気づけば泣いていた。 溢れて溢れて、自分の強かさに嫌気がさした。 その私の姿を見て、少女は歌うのを止めた。 「やっぱり、泣いちゃうんだね」 って嘆きながら。  
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