初恋 ~浅き夢見し~

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Iさんだった。 彼女はこの事務所立ち上げ時に、一緒に配属された仲間だ。 何もない所から始まり、二人で苦楽を共にしてきた信頼出来る仲間。 その彼女が言う。 「別にいいんじゃん? まぁくは感情移入し過ぎだよ(笑) 私たちの仕事は探すだけ、でしょ? その後のことは依頼者さん次第だよ。 それに、もしまぁくが依頼者さんの立場だったらどうする?」 「・・・んー・・・会いたい、なぁ・・・」 「でしょ? たしかに新しく傷つくかもしれないよ。 でも、すれ違ったままよりいいと思う。 私なら、本当のことを知って傷つきたい」 ・・・Iさんには、いつも上手く丸め込まれる。 でも、Iさんの言う通りかもしれない。 感情移入し過ぎてしまうのは、私の悪い癖だ。 そう考えていると、依頼者が言った。 「僕は間違っているかもしれません。 あなたの言う通り、もう触れないでいるのがいいのかもしれない。 でも、会いたい。会いたいんです! ・・・僕の初恋なんです」 彼は泣いていた。 こんな純粋な想いを、ドラマや映画でなく現実で見せられるとは。 その涙は、私の心を強く揺さぶった。
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