2495人が本棚に入れています
本棚に追加
依頼者は泣いていた。
ビデオに映る女性は、正に彼が愛したその人だった。
様々な想いが絡み合いこみ上げた涙に、思わずもらい泣きしそうになるのを堪え、煙草に火を点ける。
「・・・では、これで調査終了でよろしいですね?」
依頼者はまだ泣きながら、しかしこれ以上はないだろうという笑顔で、何度もうなずいた。
「後はあなた次第です。
どうなるかは分かりませんが、頑張ってください。
心から応援しています」
Iさんが依頼者に言った。
彼は声にならない声で、ありがとうございますと繰り返した。
15年前に止まっていた時間が、今、動き出した。
遅すぎたかもしれない。
忘れたままの方が幸せだった結果が、待っているかもしれない。
それでも彼はこの瞬間を望み、そしてそれは叶った。
Iさんの言う通り、後は彼次第だ。
せめて、祈ろう。
この純粋すぎる初恋に。
「んー、よくやったなあ~」
依頼者が事務所を去ると、大仕事をやり終えた後のように満足気にビールの栓を開け、笑顔で言うIさん。
少々釈然としないが・・・まあいいか!
素直に乾杯しよう。
みんなが帰ってきたら、酒盛りだ。
最初のコメントを投稿しよう!