初恋 ~浅き夢見し~

12/13
前へ
/170ページ
次へ
依頼者は泣いていた。 ビデオに映る女性は、正に彼が愛したその人だった。 様々な想いが絡み合いこみ上げた涙に、思わずもらい泣きしそうになるのを堪え、煙草に火を点ける。 「・・・では、これで調査終了でよろしいですね?」 依頼者はまだ泣きながら、しかしこれ以上はないだろうという笑顔で、何度もうなずいた。 「後はあなた次第です。 どうなるかは分かりませんが、頑張ってください。 心から応援しています」 Iさんが依頼者に言った。 彼は声にならない声で、ありがとうございますと繰り返した。 15年前に止まっていた時間が、今、動き出した。 遅すぎたかもしれない。 忘れたままの方が幸せだった結果が、待っているかもしれない。 それでも彼はこの瞬間を望み、そしてそれは叶った。 Iさんの言う通り、後は彼次第だ。 せめて、祈ろう。 この純粋すぎる初恋に。 「んー、よくやったなあ~」 依頼者が事務所を去ると、大仕事をやり終えた後のように満足気にビールの栓を開け、笑顔で言うIさん。 少々釈然としないが・・・まあいいか! 素直に乾杯しよう。 みんなが帰ってきたら、酒盛りだ。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2495人が本棚に入れています
本棚に追加